前回mp3変換サービスと著作権 (5) 翻訳サイトにて翻訳サービスはmp3変換サービスの構成と同等に見えるが著作権としてはどうなのかという疑問があることを書いた。
自分の中で解決したので、その思考の過程を交えて書く。
エキサイト翻訳のウェブページ翻訳の問題提起
まず、事実関係として、問題と感じているのは、エキサイト翻訳の中でもウェブページ翻訳である。ウェブページ翻訳は、URLを入力することで英語言語のサイトを日本語に機械翻訳して見せてくれたり、逆に日本語のサイトを英語に翻訳したりするサービスを提供している。
このようなサービスの仕組みとして、まず入力されたURLのサイトのデータを取得し、それを機械翻訳し、利用者に送信することが想像できる。
この場合、入力された元のURLのデータを翻訳サーバにダウンロードする時点で複製が行われる。また、複製されたデータを翻訳し、送信することは公衆送信である。よって、無断複製と無断公衆送信が行われているのではないか、という疑問を持った。しかし翻訳サービスは各社様々に展開している。問題は無いのだろう。
著作権侵害に該当しないヒントがエキサイト翻訳の規約にあるのではないか、とあたりをつけ、読むと、
エキサイト株式会社(以下、当社と言います)は、利用者の個人的かつ私的な翻訳作業の省力化のために本翻訳サービス(以下「本サービス」といいます)を提供するものであり、利用者は当該私的利用の範囲を超えて、例えば営利目的のために翻訳結果を利用したり、当社ウェブページ翻訳の機能を使って利用者のホームページを自動翻訳するなど、本サービスによる翻訳結果を公表、引用、改変等により使用することはできません。
また、当社は、現段階における種々の制約のために、本サービスによるいかなる翻訳結果についても、それが完全かつ正確であること、利用者にとって有用であること、利用者が本サービスを利用した目的に合致することを保証致しません。
利用者が私的利用範囲を超え、或いは法令又は公序良俗に違反する態様で本サービスの翻訳結果を利用したことにより、又は、本サービスの翻訳結果に依拠したことにより利用者ないし第三者が損害を被った場合は、すべて利用者が負担することとします。
としており、私的利用である点を強調している。そこで利用者が私的利用のための複製を行っているというシナリオが考えられる。
検索エンジンのような暗黙の無断複製では、googleの場合はrobots.txt ファイルを使用してページをブロックまたは削除するのように拒否する方法を公開している。これはgoogleが権利者に無断で勝手にキャッシュを取得しているからであり、権利者はgoogleに対して複製の差止を行えるためだ。今回のケースでは翻訳されることを拒否できる仕組みは(検索して確認してみたところ)公開されているようには見えなかったので、無断複製ではないと考えられる。
よって私的複製の範囲に入るかどうか考察してみたが、エキサイト翻訳に限れば、同様の翻訳ソフトを利用すれば自宅でも実現可能であることは私的複製と主張するに有利だが、サーバの保守管理を行っているのはサイト運営者である点で完全ではないので、主体はサイト運営者側にあると判断されうる。
またよしんば複製が認められたとしても、公衆送信の点において、1ユーザに対して1ハードと分けている様子は見られない(録画ネット事件参照)。
そもそも私的複製を訴えられないと考えられる。例えば、ある英語の書籍を購入したが英語では可読性が悪いので、誰かに日本語に翻訳してもらいたいという要求があるとする。翻訳された結果は世間に公開するつもりはなく、自分だけが読むつもりだ。これを営利的に誰かに依頼すると、私的複製の範囲に入らない。なぜなら私的複製は複製は利用者が行わなければならず、この場合では利用者自身が翻訳(複製)を行っていないからだ。
この点から、複製しているとすれば、公衆送信侵害の線は消えず、適法であるとは言いがたいことから、前回の記事で備忘録とすることにした。
複製していない
しかし頭を冷やしてよくよく考えてみると、エキサイト翻訳は遅い。特に「訳文のみ表示」と「訳文と原文を表示」を切り替えるだけでも遅い。
通常、このようなシステムを構築する場合、負荷を大きくしないために翻訳元のデータを翻訳サーバが保存し、それを翻訳した結果と共にある一定時間、保持するものと考えられる。なぜなら、上記の訳文と原文の表記を変更した際に、すぐに訳文を表示できるようにするためである。しかし、そのようなシステム構成をとっているように思えないほどに遅い。
このことから、どうやらサーバにデータを保存しない形式ではないのか、という発想が生まれた。つまり、複製の事実がないのだ。
翻訳サーバは、翻訳のリクエストがあるごとにウェブページの取得を行い、翻訳して利用者に渡している。その間にストレージに対する保存は(見かけ上は)行われていない。よって同じページの翻訳であろうと、時間がかかる。
複製の事実がなければ、複製されたデータは翻訳サーバには存在せず、公衆送信権の侵害の事実も生まれない。つまり、翻訳元URLと利用者の1対のやり取りであり、通常の私的利用のための複製が行われていると見ることが出来る。そのため、エキサイト翻訳では、私的利用であることを強調したのではないかと考えられる。
利用者が、元の文章をどのような形で受信するのかを選んだだけだ、という形になる点が今までの発想になく新鮮だ。この論理はダウンロードとストリーミングにおける法解釈の違いとしても現れている。ダウンロードは複製だが、ストリーミングは複製として考えない(らしい)。まさに翻訳サービスは、翻訳のストリーミングとして考えることができるのだろう。
mp3変換サービスではどうなる?
この議論の発端となるmp3変換サービスに照らし合わせてみれば、動画共有サイトからリアルタイムにデータを受信しながら、かつ、リアルタイムにmp3切り出しを行いつつ、利用者に送信することを実現すれば複製に当たらず、権利侵害をしていることにはならなそうだ。
と、ここまで考えて、このサービスが現実的かどうかについては、疑問だ。