誰がために、どのように製品は作られる

大前氏のプレジデントの記事の中で考えさせられる一説があった。

業務のIT化についての議論で大前氏は「自分たちがやっているとおりになぞらせる」というシステムづくりは誤りで、「ゼロベースで作り直せ」と説いている。

自分はもともと、業務IT化に関しては「自分たちがやっているとおりになぞらせる」システム作りをすべき論者だった。IT化を行おうとすれば、その利用者は反対する。なぜ反対するのかというと、今までの業務の流れと別の流れになってしまい、今までの経験が生かされないからだ。今までの業務とまったく違う手法をとれば混乱が発生してしまい、業務としては致命的となってしまう。ギャンブルはできない。

だから、紙ベースのものをそのままITの上でデジタル化をし、その後に最適化する部分は徐々に変えていけばいい。それだけでも意義がある。

そう考えていた。

しかし、最近、デザインについても考えていくようになってみると、その考え方はどうか、と思えてきた。

製品におけるデザインのあり方は、その利用者に対して新しい生活を提案していくものだ。その提案は業務システムであれば「今までの業務手法よりも効率的で低コストでスケーラブルで・・・」のようなものだ。しかし「人の行動になぞったシステム作り」では、期待する効果は薄い。なぜならコンピュータの仕組み、ネットワークの仕組み、具体的には検索を効果的に動作させる制約や、自動的に書類を発行するための制約などを前提として、ゼロからシステムをつくるという考えがない。

業務の途中に少しITをはさんで、わが社もIT化した!という建前を与えるだけのものになってしまう。それは建前を与えるものとしては経営部としては得だが、実際に作業をする人間にとっては得ではなく、ひいては経営にとっても得ではない。

Webサイト作りにおいても、ソフトウェア作りにおいても、ネットワーク作りにおいても、やはり、真に素晴らしい製品は人の生活を狂わす。インターネットは人の生活を変えた。携帯電話は人の生活を変えた。ゲームソフトはやはり、人の生活を変えた。各人に新しい生活を提供しているのだ。

それまでは、人の生活の通り道でちょっと寄り道してもらえばいい、という考えで作業をしてきた。その発想よりも一歩出るとすれば、人の生活の通り道で待ち伏せをして人生を狂わすほどの衝撃を与えて、そっちの道を行かせるほどのデザインを考える、という考え方も必要のようだ。

そのためには、製品を利用するだろう顧客の分析、ペルソナ、超限定を行っていく必要がある。多くの人に利用してもらうのではなく、少ない人々でも、極限的には、ただ一人に大満足して利用してもらえれば成功。という考えを持たなければ、とうてい多くの人の心を打つデザインというものはできないのだろう。

と、最近は考えている。

追記:

昔と今を比較して。現代になって、顧客の顔の見えない場所で働いている人が増えているんだなぁと思わされる。物流、ネットワークによって、人と人は離れていても仕事ができるようになった。専業化が進んで顧客対応は専門の部署だけで行われるようになっていった。そんな場所で顧客の顔を創造して仕事なんて出来るもんなのかね。営業との連携次第だとは思うが…

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