プロトタイプは破棄されるために生まれる

ロボットものやSFもののフィクションの話の中でよく「プロトタイプ」が存在する。主役級のメンバーが「正規品のプロダクト」であり、それに先立って生まれた試験的な存在がプロトタイプである。話の中のプロトタイプは、研究史・開発史の中で破棄され、それに恨みを持ち暴走するが、プロトタイプゆえに欠点があるので…というストーリー展開が行われやすい。

このことから、プロトタイプはプロダクトに先立って製作されること、やがて破棄されること、欠点があることが暗に語られる。

Wikipediaにおいてプロトタイプはこのように語られる。

新製品を量産に移す前などに試験用途として作られ、製品の設計に起因する問題やその他の不具合を発見することができ、具体的な修正の検討に入ることができる。こうすることによって、量産して市場に出た後で不具合が発覚することを防ぐことができる。

プロトタイプは破棄される

フィクションの物語にたがわず、もともとプロトタイプは破棄されるために生まれる。しかしながらプロトタイプをプロダクトとしてしまうことも少なくない。その場合、プロトタイプはプロトタイプとしての役目を担っているとは考えづらい。

プログラムの世界のプロトタイプに関するTIPSでは、あえてプロダクトとは違うプログラム言語でプロトタイプを作成せよ、との意見がある。そうすることでプロトタイプをプロダクトに流用できないようにすることが目的だ。Web製作の世界のプロトタイプのTIPSでも、Webサイトを作らずに紙で作業せよ、との意見があるがこれも同じ目的だ。

プロトタイプの役割は最終的なプロダクトの目指す方向性を、大まかに指し示すことにある。プロトタイプは方向性ごとに複数存在する。選ばれなかったプロトタイプは破棄される。選ばれたプロトタイプの中で、さらにプロトタイプが生まれる。その中で選ばれ、また破棄される。そうした作業を経ていくことによって、プロトタイプはプロダクトに進化していく。

欠点がなければプロトタイプではない

プロダクトに近づくにあたって、大胆な変更は行われなくなる。なぜなら、初期のプロトタイプで既にその大胆なアイディアの採用は破棄されているからである。(時代の変化や市場調査の結果によって変化する要素もあるかもしれないが、それは初期調査が甘かったという結論になるのだろう。)欠点がなければプロトタイプではない。

プログラムの世界では、プロトタイプの度重なる破棄を重視した手法をスパイラルモデルと呼ぶ。1度で完全なる製品を目指すウォーターフォールモデルとは理念が異なる。”人は間違わない”という意志が強いものを作る力を与えるウォーターフォール、”人は間違ってもいい”という意志が諦めない永続的な力を与えるスパイラル。状況に合わせて適したものを選ぶべきだ。

過去にスパイラルモデルに感銘を受けて、やろうとしたことがあったが、なかなか上手くいかない。上手くいかない理由を考えてみたところ、1回のスパイラル(プロトタイプ)に要求するものが大きいと、大回りになってしまうため、息切れしてしまう。それが問題だったと今は考えている。

何度も挑戦するタイプのスパイラルを描く場合のコツは、初期のプロトタイプをいかに小さく描くかにあると考えている。小さく描くこととは、性能を落とす・機能を削減するために必要なことの話に通じている。真に必要なこと(顧客を満足させるに最低限十分なもの)、必要なことを満たすための足がかりを細切れすること。

分かっていてもなかなか出来ない。できないのは真に分かっていないからだろう。プロトタイプを捨てるのも、捨てられるのも、心が痛い。でも捨てられない症候群が部屋をカオスにした結果を知っているし、それらの物を整理整頓したら効率がよくなったことも知っているから、やらねばならんのだろうなぁと思う方向には向かっている。

そんなこんなで最近はプロトタイプについて考えていた。

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付け加えるなら、プロトタイプが量産型に勝つようなことがあるとすれば、それは量産機が間違った進化を経たといえるだろう。プロトタイプは本来的にはコストを考えず高価な素材、一点ものの場合が多いので、量産機に対して性能的なアドバンテージが存在するという設定は多い。しかしながら量産機の目的はプロトタイプと同等の目的遂行能力を持つことなので、正当な進化を経たのであれば搭乗者の能力以外に撃墜能力に違いは出ないはずである。その場合、搭乗者と開発者の間で利用方法に対して、意見の一致、コミュニケーションが取れていない箇所があったと見ることが妥当であろう。

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