独占は罪 〜 JASRACを刺したのは誰か?

2008年4月23日、公正取引委員会、JASRACに独占禁止法違反の疑いで立ち入り検査が行われた。

2005年時点で、JASRACは独占禁止法違反ではないのでしょうか? – 教えて!gooにて

JASRACという著作権について扱う団体がありますが
あれは独占禁止法にあたらないのですか?
ネットで調べてみると著作権業界は、最近「「著作権等管理事業法」が制定されることで、他団体の参入が可能になった」と書いてありました。しかしJASRACの影響が大きいせいで参入は実質的に不可能だということです。
これは市場の独占にあたるのではないのでしょうか?
独占禁止法が定める「公正で自由な競争」という理念から外れているとはいえませんか?
よろしくお願いします。

のような質問が行われているが、独占禁止法を指摘する回答は出てきていない。

そのJASRACの独占禁止についての興味深い見解がJASRACを刺したのは誰か(解答編)に述べられている。

 公取委がJASRACを立ち入り検査したのは,JASRACが独禁法に違反していると誰かが申告し,その事実を確認するためであったと考えられます。

そして、その「誰か」とは

放送で使われた音楽の使用料を過去に徴収していたのはJASRACとイーライセンスだけであり,申告した可能性があるのは事実上,イーライセンスに絞られていました。事実,このブログ記事を書いた後,複数の方から「申告を行ったのはイーライセンスである」との情報が寄せられました。その後,イーライセンス代表取締役である三野明洋氏に対し,「イーライセンスが申告を行ったかどうかについては,取材の際には肯定も否定もしなかった」ということを確認しました。

としている。

さらに興味深い先読みとして、

 「音楽著作権者の利益を守る」という目的がある限り,JASRACが現在の利権を自ら手放すことはないでしょう。しかし,長い目で見ればJASRACも安泰だとは限りません。今回,問題視された放送事業者とJASRACとの定額契約は,放送事業者が自ら使用した楽曲を全曲は把握できていない点に原因があります。いわば「誰がどの商品をどれだけ売ったかがよくわからない状態」であり,競争が極めて成り立ちにくい市場なのです。一方,今後は楽曲提供の主流になると期待されているネットワークの世界では,すべての使用楽曲を容易に把握できます。

そして、

JASRACは,動画共有サイトである「ニコニコ動画」や「YouTube」との間でも楽曲使用の契約を結んでいます。JASRACによると,これらの契約はすべて全曲把握が前提になっているとのことです。こうした市場であれば,新規参入にも可能性があります。

とされている。

まとめると、このような理論になる。JASRACとしては、JASRACの利益が増大することが音楽家の利益の増大となる。よって、JASRACの利益を最大限に保つためには、音楽市場を独占し続けた方が都合がよい。そして音楽市場を独占するために、「包括契約」を行っている。

包括契約とは、楽曲の使用曲数に関わらず、事業収益の1.5%を楽曲の使用料として徴収する契約のことだ。つまり、収益の一定量を支払う契約をしているので、楽曲が使いたい放題な訳だ。ここまでの前提があり、記事中では「放送事業者が自ら使用した楽曲を全曲は把握できていない点」に問題があり、音楽家(もしくはレーベル)に正しい利益配分ができていないのでは?という疑念が生まれる。

その疑念を確認する意味で、「イーライセンスは放送における音楽著作権の管理をエイベックスマネジメントサービスに委託され,放送事業者と「使用料を個別徴収する包括利用契約」を結び,2006年10月から管理業務を行ってい」た。つまり、エイベックスは自身の音楽使用量がJASRACとの包括契約では”低く”見積もられてしまい、音楽家(またレーベル自身)の利益を最大にできないと考え、イーライセンスとの「個別徴収」の包括利用契約を結んだ。

しかしながら「JASRACに支払っている定額の使用料に追加する形で費用が発生してしまうため,エイベックスの楽曲がほとんど利用されなくなってしまった」、そして「エイベックスマネジメントサービスは同年12月下旬,2007年1月以降のイーライセンスへの管理委託契約を解約した」という展開を迎えている。

この問題の原点は、(多額の?)使用料を支払っている放送局が正しく楽曲使用の記録を行っていない点、そしてそのために、JASRACが正しく利益配分をおこなえていない可能性がある点、加えて放送局としてはその楽曲使用の記録は(とても煩雑な作業なので)今後としても行いたくない点にある。

これでは市場に参入できない。これらの背景があり、2009年2月27日、JASRACに勧告が行われた。JASRACに排除措置命令 新規参入を妨げているとして、公取委  – MSN産経ニュース

もともとJASRACの存在理由は音楽家の個別契約などの煩雑な作業を肩代わりして徴収することができる点であり、それは音楽家と利用者の双方に望まれている状況だった。しかし、JASRACのような業者が増えてしまうと、契約の手間がさらにかかってしまうために本末転倒である。つまり利用者側(特に放送局)としてはJASRACに独占されている方が、一社契約にまとめられるので都合がいいのだ。

結局のところ、JASRACのような団体を増やすためには、そのような団体の契約を管理するための、さらに1つの上位団体をつくり、その団体を通して楽曲使用料の支払いインターフェースを作るしかない。Googleが本のJASRACを設立する件についてのような話も関係ある。

そのような楽曲使用スキームがネット上などで構築できれば、ネット上における個別な楽曲使用による正しい利益配分も見えてくるのかもしれない。

ネット上の音楽配信について考えられることは、やはり音楽は「聞く・好きになる・買う」であり、初段階の「聞く」を実現できる手法でなければ最終的に「買われない」。企業が個人から曲を買って放送する(もしくは動画に利用する)というスキームが著作権管理団体も巻き込んで簡単な決済が行えるようにインターネット上でも構築することができれば、「聞く」を音楽家・使用者双方が納得できる状態で実現できるようになる。

カテゴリー: チラシの裏 パーマリンク

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