「見て盗め」という教育方針について考えてみる

日本の職人さんの世界では「見て盗め」という言葉がある。これは前回のマニュアル話とは違う価値観の上で成り立つ話である。しかしながら、長くそのような慣習が行われてきたということは、何かしらの効果があることだと思う。そこで、「見て盗め」の意味を考えてみた。

「見て」とは、観察力のことだと考えられる。「見て盗め」とは”よく観察して自分でやってみなさい”という意味とする。それでは、何故、手取り足取り教えることをせずに、観察力を求めるのだろうか。観察力を求める意義について考えていく。

1つは、親方が教える時間がない、教えるのが面倒くさい、という可能性である。
親方は多忙である。ゆえに弟子に時間をかけることが出来ない。そこで、自身の仕事を見せることで教育の代わりとしているのである。

1つは、親方が教え下手である、という可能性である。
親方とて、人の子。生まれたときから親方であるはずもなく、様々な人生を経て親方になっている。中には弟子にならずに親方になってしまった人もいるかもしれない。親方自身も、技を見て盗んで覚えた口かもしれない。もしくは無口で何もしゃべらずコミュニケーション能力に問題があるかもしれない。

1つは、親方以外の人の動き、自然の動き、全てから学ぶことができる、という可能性である。
有力なのは、感性を磨くための訓練、という線である。職人ほどの手さばきとなると、口で伝えること以上に身体で覚えることも多い。また、継承だけではなく、弟子本人の感性を持って昇華させなければならない。そうしたときに感性が磨かれていないと、人のためのモノづくり、サービス、芸術は行えない。そうした活動は人を喜ばずために行われるものであり、どうしたら人が喜ぶのかについては観察力がなければ分からないからだ。

1つは、見て出来るようになるようなセンスの持ち主でなければ職人として生きていけない、という可能性である。
親方としては、弟子はそうした感性を持っていなければ、到底、この業界・職業で生きてはいけないだろうと考えている。そこで、観察力が一定の水準を満たしているかどうかの線引きとして、「見て盗め」を実践させている。

見せないがやってみろ
また調べてみると、「見て盗め」よりも過激に「見せないがやってみろ」というものもある。この考え方は奥が深く、勉強になる。観察力に長けており「見て盗め」が上手く行える人は、見たことが無い作業はやらない、という状態に陥る。これは保守的であり、新しい革新的な何かが必要になったときに見てないから出来ないでは困る。「見て盗む」ことに満足しないで、”見たことが無いことを出来るようになる”段階まで先があることを気づかせてくれる。

これは、観察もせずに勝手に作業を行うのとは違う。今までの観察を踏まえて、どのようにしたら相手が満足するのかを考えながら作業しろ、という意味とも取れる。深い。

現代の組織活動ではどうなのか
「見て盗め」という教育手法は、教育者の手を煩わせずに生徒を成長させられれると思われるが、成長には長い時間が必要ではないかという予想がある。職人の世界では住み込みで仕事を行いながら覚えていくが、これは長期間続けて行われる。”気づき”とは人に差があり、一般的には短期間で習得出来るものではない。それでも成り立つのは、弟子が”技術を習得したい”という強い思い入れがあり、一瞬を逃さない心構えが出来ているからなのだと考えている。

現代の組織では、場所によっては短期間の成果を出すことを求められながらも、「見て盗め」手法が行われている場合がある(と予想している)。この手法が短時間で上手く行くのかについては非常に疑問である。まず、強い思い入れが生徒側にない。そのため執着もない。観察力を磨くという境地にも至れない。短時間ではなおさらだ。

もし短時間で習得に成功するのであれば、教えるまでもなく出来た、というケースのような気がする。そこに教育があったのかどうかも疑問だ。

よって、短時間で成果を出すまでに教育する、という観点ではマニュアル作りは欠かせない、という結論に、今日は至ろうと思う。
逆に長期間の余裕があり大成を願うのであれば「見て盗め」も悪くはない。マニュアル作りにせよ、「見て盗め」にせよ、どのようにしたら相手が喜ぶのか、効率良く行えるのかについての結果比較は観察力がなければ測定ができない。よってマニュアル教育においても観察力を養う必要はあるのだが、その気づきを与えるには一人で読むことよりも他の人とのミーティングが効果的だろう。

ってか、まだマニュアル忘れてないのかよ。

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