かつてshockwaveという名前の技術を生み出したMacromediaは、ある会社を吸収し、新たな技術を作り出した。それが、ShockWave Flash(swf)、通称flashだ。
当時、アニメーションはアニメーションGIFをはじめとして動画的な手法で表示されることが多く、そのため狭い帯域で大量の動画情報を送信しなければならない問題があった。Flashはラスタではなくベクタによる描画情報を送信することによって、ユーザのPCに対して狭帯域でも良く動くアニメーションを提供してきた。
そのベクタアニメーションを作成するツールは何だろうか。それはAdobe Illustratorだった。コンピュータ上でイラストを作成する場合、このIllustratorがほぼ標準となりつつあった。
ベクタアニメーションによる新しい表現の地盤を得たMacromediaは、Flash 7で動画配信に対応した。Flashで動画を見ることができるようになると、YoutubeがFlashの能力を上手く生かし、ブラウザのみで動画配信が可能になるという新しい次代の幕開けとなった。それまでのWindowsMediaPlayer, QuickPlayer, RealPlayerによるスタンドアロンなプレイヤーの時代は幕を引いた。
世界が変わるとき
それまでデザイナー主導のFlashつくりが行われていた。しかし時代はより複雑なロジックを実現するFlashを求めていた。
MacromediaはAction Scriptというflash上でプログラムを動作させることのできる言語を生み出していた。その後Adobeに買収され、flashの進化はAdobeに委ねられた。Adobeの選んだ方針は、FlashをRIAとすることだった。
当時から、ユーザーインターフェースとプログラムロジックの分離が課題としてあった。リッチなグラフィカルインターフェースを提供したいが、デザイナーはプログラムを理解できない。また、ほどんどのプログラマーはグラフィカルなインターフェースを作ることはできない。よってリッチなグラフィックを持つアプリケーションはデザイナーとプログラマーの密な連携を必要とした。
しかし、この連携が上手く行かないケースも多く、結果として「リッチなインターフェースは、ユーザビリティを低下させる」という論が大勢を占めるようになっていった。(ゲームの、エンターテイメントの世界ではともかく)
この課題の解決手法として、AdobeそしてMicrosoftはデザイン(ユーザーインターフェース)とロジックの分離という策を打ち出した。Microsoftはこの分離をWindows Presentation Foundation(WPF)という概念でまとめ、.NET 3.0に搭載、スタンドアロンアプリケーション(C#)やFlashに対抗するためのWebアプリケーション(Sliverlight)の発表を行ってきた。
Microsoftにしかできない、特有の違いを出す仕組みとして、DirectX 3Dを介した描画表現を打ち出した。この特徴はWPFで書かれたアプリケーションを拡大してみるとフォントなどがラスタではなくベクタであることからも分かる。またSliverlightによるWMV再生などの機能も他には実現しない機能である。
それに対してAdobeではどのような方針を採ったのか。Flashの元々は、ベクタ描画によるインターフェースを実現するAdobe Illustratorと、ロジックを管理するMacromedia flashの連携である。そこでIllustratorからのFlashへの歩み寄り、FlashからIllustratorへの歩み寄りを課題とし、デザイナーとプログラマーが利用する”既存”の開発環境の対応を主軸とした。既存のデザイナーのほとんどはIllustratorを利用しているのだから、そちらからの歩み寄りを行うことでロジックとの統合との好印象を与えることができる。
その、統合の成果としてAdobeが発表を行ったものがFXGだ。FXGはFlashに特化したグラフィックのための言語であり、Illustrator CS 4にてすでに対応している。このFXGをFlash側から資源として利用可能になる。Adobe Flexではバージョン4から対応する。
それぞれの企業でできること
Microsoftの強みはOSを持つことであり、RIAを実現するのであれば、OSとのより強い結合を武器にすることだろう。資産は、今まで開発を続けてきているVitual Studioの愛用者であり、ロジカルな製品を作成することに長けている。
Adobeの強みはデザイナー向け製品を持つことであり、RIAを実現するのであれば、デザイナー向け製品との強い結合を武器にするだろう。今まで開発を続けてきているIllustratorの愛用者であり、グラフィカルな製品を作成することに長けている。
双方が課題としているのは、Microsoftとしてはデザイナーの確保、Adobeとしてはプログラマーの確保であり、誰が移り気なのかが争点としてあるが、比較的上手くいっていると思えるのはAdobeのプログラマーの確保の方かもしれない。しかしビジネスユースの開発は依然としてMicrosoft陣営の方が信頼が厚そうだ。
AdobeがMacromediaを買収したことは、AdobeがRIAをやっていく上で非常に重要な戦略だったし、上手くいっている。この場合のシナジーとは、Adobeの持つデザイナー群とFlashの持つデザイナー群の融合と、それに続くRIAの道であったと思えるからだ。固有のプラットフォームに依存しない描画エンジンという強みが、Adobeの持つ製品の価値、ベクタ表現の価値、ひいてはデザイナーの価値を高めている。
2005年4月のAdobeによるMacromedia買収のときから何が起きているのか観察を行ってきたが、(上手くいくかは別として)ようやく形になるものが出てきたと感じている。