前回、好きなものを作れば誰も見向きもしない、要望を聞いて作ってもコレジャナイと言われる、という事柄について述べた。
ものづくりの起点において、如何なる手法を取るべきかの答えについて、どういった方法がよいのか。
これには、何通りもの答えがある。それで良いと思う。ものづくりのさらなる起点――「売れる」ものづくりを始める前にものづくりをしたくなった理由――という当初の気持ちが人それぞれだからだ。
ともあれ、「どういった作り方がよいのか」という悩みを持つ多くの人は、「良い物をつくり、人々に提供したい」「良い物を作ったが、人に使われない」などの悩みに集約されていくのだと思う。「売れるものづくり」よりも「作りたいものを作る」ことをしてきたということだ。
そうした「売れないものづくり」を続けていくことで、今まで積み重ねたものが無駄なもの、虚構なのではないのか、と、やがて打ちひしがれる。しかし、続けてきたことは無駄ではない。が、流石に続くと、そう思ってしまう。そうした状況に陥る人々は多く存在するのだと思う。そうした状況を打ち破ってきた前例を見ていくことで、変えることが出来るかもしれない。
大衆化
その現状を打破する1つの方法は大衆化、すなわち「大衆迎合」であると信じる。その道のコアな顧客が大反対するアレである。
この大衆化が大きく成功するのは、「技術はあるが、売れない」ケースであると思う。
初回の「好きだからものづくり」が終わり、こだわりの製品・サービスができた後において、次に「売れるものづくり」のイテレーション(反復作業のうちの1回の期間)に入る。この「売れるものづくり」の起点として、市場調査ではない、大衆化を今回はテーマとする。
大衆化の例はいくつかあるが、チョコエッグとニンテンドーDSを挙げる。
チョコエッグに見る大衆化のテーマ
チョコエッグの件は、最近放送されたカンブリア宮殿という番組で知った。詳しくはカンブリア宮殿のサイトにいくと、長いビデオがあるはずなので、それだけ見ても話は分かる。
海洋堂は版権ガレージキットの製造でトップクラスの技術力を持ち、有名な会社だったが、版権を大手に奪われてしまうことが何度も発生し、版権に頼らないビジネスを模索していた。その時にチョコエッグと出会い、成功につながる。
Wikipedia 海洋堂 ノンキャラクターの模索~チョコエッグの時代
宮脇修一はチョコエッグのおまけは今のところたいしたものではなく、これを海洋堂が作る事でもっと良い物ができると思いついたのである。アクションフィギュアでノウハウを蓄積した中国の工場も使える。
結果は大成功した。他社の人気キャラクターのおまけつき商品を押さえ、圧倒的な売り上げを記録した。本来の狙いである子供はもとより、おまけの完成度の高さに感心した大人までがこぞって買い始めた。加えて第二弾途中からツチノコがシークレット(=ラインナップ表に載っていないもの)で入っているということが口コミで広がり、チョコエッグファンの収集欲を刺激し、人気に拍車がかかり、2001年には大流行商品となった。
中国製造を可能にし、質の高い製造ラインを作成していたことが成功へのつながる。
しかし、中国で生産すれば、日本国内で金型を起こし生産するのとは比べ物にならない低費用で出来ることが判明する。そしてこれがゴーサインになった。海洋堂は「こんなウチの水準をわざわざ下げたものを真面目に作るのは気が引ける、あくまでもシャレでやるんだ」というスタンスで動き始めた。
当初はシャレで始めた中国製造が結果的には食玩ブームを起こした。現在では旭山動物公園でもガチャ(カプセルトイ)の製造を行なっている。カプセルミュージアムプロジェクト参照
フィギュアの大衆化
この例はフィギュアの大衆化である。
当時フィギュアと言えば、いわゆる美少女フィギュアであった。食玩ブームを巻き起こしたチョコエッグのフィギュアは「日本の動物」であり、第一弾はニホンザルだった。当時、「動物のフィギュアを作りたい」と言っても誰も作らせてくれない時代だった。しかし、食玩として製造することに成功する。
この流れを大衆化の良い例だと思っている。当初はシャレで作ったラインが、一般人へ提供する入り口になる。
売れた理由としては、食玩、おまけだったら”おかしに無料でおもちゃがついてくる”という感覚がある、また食玩は何が入っているのか分からず、目当てのものが出てくるまで買ってしまう、という点が番組内では挙げられていた。
チョコエッグの件をまとめるとこのような感じになる。
- 質の良いフィギュアを製造できる(デザイン)
- 質の良いフィギュアを大量生産できるラインを持っている(技術・ノウハウ)
- 食玩として提供する
- 一般客でも手に取りやすいお菓子とテーマ(動物)
- お菓子の「おまけ」という位置(買いやすさ)
- ただの動物フィギュアだったら悩んでしまう
- お菓子の流通力
- 何が出るかわからないガチャの要素(顧客あたり売上の向上)
この成功のために、色々と納得出来ないことはあったのだろうと思う。しかし、まず大衆化に成功したことが大きいのではないか。
この大衆化がもたらしたものは、今までフィギュアに興味のなかった人に売ることができたということである。大衆に「動物のフィギュアが欲しいですか?」と聞いても欲しいという人はいない。その状況化で勝ち得た製品の勝利である。
すなわち、大衆化として重要なテーマは、今まで○○に興味のなかった人にいかに売ることができるかであり、そのためには色々と切り捨てなければならないもの、技術者・開発者・ものづくりする人としてのプライドがある、ということである。
今は車が売れない時代とされている。仮に大衆化に当てはめれば「今まで自動車に興味のなかった人にいかに売ることができるか」というテーマになるが、実はこれが今の自動車業界のテーマであったりする。
ゲーム業界でも過去にどうようなことが成功しているので紹介したい。
ニンテンドーDSに見る大衆化のテーマ
過去の自分のブログ記事を参照として挙げる。ケータイ小説とNDSから文学の再発見を紐解く
ハイスペック化、操作性が複雑化していく中で、任天堂の出すゲーム機は操作性が簡単(直感的)で今までにない新しいものを作ることが課題だった。その結果、山内氏が「2画面や・・・」と言い残したのをヒントにニンテンドーDSが開発された。
操作性が複雑化していくことで、コアゲーマー以外のユーザー、つまり新しいユーザーや女性層が購入しにくい、という印象が付きまとうようになる。結果的に購入者である「お母さん」に嫌われてしまうゲーム機になってしまい、購入を抑制されてしまう。それを解決するために、誰でも簡単に利用できるという操作性が課題となった。
ゲーム業界はそれまでスペックしか求めて来なかったが、操作性を簡単にすることで誰でも出来るように見せ、成功させた。
この大衆化がもたらしたものは、今までゲームに興味のなかった人に売ることができたということである。
この中に出てくる「女性層」というキーワードが気になる。例えば一般的に「女性層」向けの製品を作るとはどういうことか考えると、色だったりその他デザインだったり、を考えがちだ。そうではない、と考える。「女性層」に支持されることの意味は、本来的には男性にしか興味を持たれないほど複雑であった製品を簡単にした、ということだ。それほどまでに簡単になると、男性のライトユーザーも興味を持つはず、すなわち、購買層全体の範囲を広くする。
ライトユーザー仮説の記事にて図案化したが、コアなユーザーしか存在しない市場の規模は縮小する。触れる機会が少ないからだ。しかし、このような顧客に価値を提供できれば、大きく躍進できることだろう。
なお、ケータイ小説とNDSから文学の再発見を紐解くでは小説の大衆化、「今まで小説に興味のなかった人に売ることができた」例も挙げている。
1つの解決方法である大衆化
入り口は分かりにくいの頃から、ジブリやニンテンドーDS、スマートフォン、初音ミクなどの例を挙げ、成功とは何なのか、その要素とは何かを追ってきたが、その1つの終着点は「大衆化」になりそうだ。
大衆化とは「今まで○○に興味のなかった人にいかに売ることができるか」である。そのためには「品質に少しは妥協して価格を抑え」「しかしながら品質は他よりは高く」「複雑なものを単純化して」「広く行き渡るように工夫をして」という一連の作業できる。この作業に、技術者・開発者、ものづくりに携わるものとして「今まで品質至上主義でやってきたから客がついてきたのに何なんだ」と憤慨することは間違いない。
しかし大衆化した、その先に、コアな顧客が生まれてくる。品質至上な顧客がやってくる。そのための布石づくりなのだ、ということを誤解してはならない。
大衆化に関してポイントを書いてみる。
- 大衆化のポイント
- 今現在、高い技術を持っている
- 元々、良いものでなければ大成功はしない
- 好きな製品・サービスでなければ練度が足りない
- 高い技術の廉価版を広く売る
- ときには幼稚だと思うかもしれない
- シャレでもいいから
- 高い技術がなければ品質を保った廉価版を作れないことは多々ある
- 流通を工夫する
- おまけでも構わない、メインの商品でなくても構わない、というスタンス
- 今までの別の流通を通ることが大事・顧客との出会いが増える
- 別のものにしか興味のなかった顧客にセットにする
- (チョコエッグの例では)お菓子にしか興味のなかった顧客にフィギュアを買わせる
- おまけでも構わない、メインの商品でなくても構わない、というスタンス
- 興味を持つデザイン要素をつける
- カラーバリエーション
- 形状
- 質感
- 複雑であれば簡単化する
- 複雑の上に成り立つ高い技術は一般には受け入れられない
- その製品・サービスが本当に提供したいものに注力する
- 今現在、高い技術を持っている
海外で人気の日本の伝統工芸、カラフルな南部鉄器の記事パリっ子が南部鉄器に夢中 岩鋳(盛岡市・南部鉄器の製造・販売)・欧米で人気 見直される和の道具もどうぞ。
次回には「継続的改善・Getting Real・リーンスタートアップ」について紹介したいが、これらの事象についてはまだ考えている最中なのですぐには書けない。