iPadから想像される利用シーンの中でも、今までになく印象的なのは電子書籍とアプリケーションである。
現時点において電子書籍で想像されるのはAmazonとSonyのビューワーである。どちらもモノクロであり、電子書籍としての機能しか持たない。そうした機器との違いをアピールするために、iPadは様々な体験ができる点を強調している。それはiPhoneから引き継いできた資産たちだ。iPadの競合のビューワー、例えばkindle DXは$489という価格で売られている。kindle DXはiPadと同じく9.7インチ液晶を持つがモノクロ表示のみであり、重量はiPadより少し軽く約525gである。kindleのネットワーク接続は3Gであるが、その料金体系は興味深い内容になっている(本の購入料金にに通信料が含まれる)。こうしたビューワーと比べると、電子書籍以外の活動が行うことができる点からも優位性は高い。
さらに書籍として見る場合にはマルチタッチによる操作性が生きる。片手で拡大、縮小、ページめくりをタッチパネルに直感的に行うことができる。IPS液晶による精細なカラー表示が行える点も大きい。
しかしながら、日本国内においてはiBookストアが上手くいかない可能性がある。しかし、それほど問題があるとは思えない。こうした電子書籍の話題では、ネットワークを通してストアにアクセスして、最新の書籍をダウンロードして読みたいという要求がある。しかしながら、それは電子書籍の一面でしかない。
既に本棚を埋めている、また毎日重たい思いをしてカバンに詰めている専門書が圧縮されて680gになると言われればどうだろうか。重さを解消する点に価値を払うのだ。既存の書籍をPDFなり電子書籍化することにためらいがあるかもしれない。実際のところ、業者が顧客から本を受け取り電子書籍化して返却するサービスは違法複製に値する(以前にCDのmp3化サービスが国内で休止したのはそのため)。よって、本の電子化は、私的な利用のための複製、つまり、自分自身で行わなければならない。
iPadの日本における電子書籍としての今後は、既存の本の電子化のノウハウ(CDにおけるリッピング)に尽きると言っても過言ではない。それはiPodが単なる音楽プレイヤーではなく、PCと密な連携を行うiTunesとの共同作業を通して大量の音楽を分類して持ち運びできるようにした点によって成功したことが理由として挙げられる。Sonyのソフトウェア、Sonic Stageと既存のウォークマンでは出来なかったことだ。はじめから電子書籍のストアありきで物事を考えるのは、iPodにおいてCDのリッピングを考慮せずにiTunesストアによるmp3販売のみを行うことを想像するに等しい。この点からも日本におけるiBookの立ち上がりの遅れは影響するが、まったく駄目ではない。
既存の書籍の電子化のキーとなるのは「本の裁断」「スキャン」「分類」である。
本の裁断については、関東を中心としたkinkosで1冊105円で行うか、裁断機を利用すると良い。スキャンについては、scansnapが良いとされている。OCRについては、スキャンと同時に行うことで手間を削減できる。PDFについても同時に行えるだろう。分類については、今のところ良いアイディアはない。
こうした既存の書籍の電子化を行う点については、望ましいのはApple、もしくはその関連した事業者が一括で行うことができるソリューションを提供できることだ。音楽・ビデオにとってのiTunesのように、専用のソフトウェアを用いて、スキャンから分類までを一括した行うことができることが真に望ましい。スキャンし終わった本は捨てることができる。その空いたスペースでiPadを利用して、さらに知的なことをすれば良い。
こうした展開を踏まえて、1つ変身を残しているとする。
–次回(翌日)は「iPadの審美眼、アプリケーション」